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健全化しないゲーム業界と規制に期待するユーザー

「グラブる?」のCMで多くの人が知っているモバイル端末向けゲーム「グランブルーファンタジー」の返金騒動が波紋を呼んでいます。ことは、グランブルーファンタジーだけではなく、ゲーム業界全体の問題として広がっていきそうです。一方、ユーザーの中には、むしろ規制されることを望むような声もあります。なぜ、そんなことが起きているのでしょうか。

■コンプガチャ規制から4年 ゲーム業界は健全化したのか?

かつて、モバイル端末向けゲームに良くみられた課金手法の「コンプガチャ」が社会問題になったことがありました。キャラクターやアイテムなどが出る1回数百円のくじ引き、いわゆる「ガチャ」において、複数のキャラクターを揃えることでさらに良いものがもらえるという方式です。しかしこれは消費者を混乱させ、当たる確率を分かりにくくさせるもので、景表法に違反する「絵合わせ」に該当するという見解が消費者庁から出されたのが2012年でした。

実はその時、ゲーム業界ニュースではコンプガチャ問題に触れ、ことの本質はコンプガチャをやめるか否かではなく、当選確率が明示されていないなどのユーザーが安心して遊べない環境を、内部から改善していかなければいけないというお話をしました。

コンプガチャ規制の後、本当にゲーム業界は健全化の道を歩んでいたんでしょうか

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それから約4年が経ちました。ゲーム業界は健全化に向けて進んでいったのでしょうか? 実は、残念ながらどうもそうとは言えない状況があるようです。

■グランブルーファンタジー ガチャ返金騒動

グランブルーファンタジーという、モバイル端末向けゲーム、ご存知でしょうか。「グラブってる?」というキャッチ-なワードが印象的なCMが大量に放送され、名前を覚えたという人も多いと思います。サイゲームスが運営し、登録者数は900万人を超えるという、大変に人気のゲームです。その、大人気のゲームで返金騒動が起こりました。

2015年末から2016年始にかけてグランブルーファンタジーのゲーム内で開催されたイベント「ゆく年くる年レジェンドフェス」において、「すべてのキャラクターの解放武器の出現率がアップします。」と謳っていたにも関わらず、多くのユーザーから特定のキャラクターが確率が他のキャラクターのものより低く設定されているのでは、という疑問の声があがり、消費者庁に多くの苦情が届き、返金要求がなされるという騒動が起こりました。

これに関してはお目当てのキャラクターを出すのに70万円以上ものお金を使ってもあたらない、というような声がユーザーから出ています。ちょっと耳を疑うような金額ですね。実際に何%に設定されていたのか、ということは外からは分かりようもないのですが、その分かりようもないものに、「出現率がアップします」という言葉を信じて多額の課金をユーザーがしている、ということ自体が問題であるとも言えます。

サイゲームスはスクウェア・エニックスからリリースされているモバイル端末向けゲーム「ドラゴンクエストモンスターズスーパーライト(以下DQMSL)」の運営会社でもあり、DQMSLもかつて、景表法の有利誤認に抵触する可能性を指摘されて返金騒動を起こしています。そういう意味では、ユーザーからの信頼が厚いとは言えません。

ドラゴンクエストモンスターズスーパーライトでも返金騒動がありました

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この状況に対し、サイゲームスはどう対応したのでしょうか?

■確率表記と救済措置

この状況を受け、サイゲームスはいくつかの改善措置を行いました。まず、これまでイベントで「出現率UP」とだけ表記していたことを改め、個別の出現確率を表記することにしました。また、ガチャで何が獲得できたかを表示していた「ガチャ履歴」の内容が疑わしいという指摘がユーザーからあったことを受けて、履歴を撤去しました。

さらに、ガチャイベント中に運悪く何回ガチャを行っても目当てのキャラクターが出ないということを防ぐため、300回以上、対象となるガチャを行ったユーザーに、すきなものをひとつ獲得する権利を与えます。

様々な施策を提案していますが、重要なのはその中身です
様々な施策を提案していますが、重要なのはその中身です

そして、仲間が解放される武器を2回目以降獲得した際、つまり同じキャラクターを2回当ててしまった場合に、単なるハズレにならないようにおまけアイテムを提供する仕組みを提供します。

その他、「ご不安の念を抱かせてしまいましたことのお詫び」として、ガチャを利用するのに必要な「宝晶石」などのアイテム配布を行います。これは現金ではありませんが、事実上の返金に近い対応です。

【関連サイト】
レジェンドガチャに関する重要なお知らせ(グランブルーファンタジー公式サイト)
「グランブルーファンタジー」の今後の方針について(グランブルーファンタジー公式サイト)

■9万円課金したら好きなアイテムが1つもらえると言われて、安心してゲームができるのだろうか?

一見、様々な問題に対応しているかのように思えます。しかし、これで十分かと言えば、必ずしもそうとは言えないでしょう。

個別の出現確率表記は大変素晴らしいことですが、それを客観的に信頼できるという透明性が確保できていない点で不安は残ります。ユーザーとメーカーが信頼関係で繋がっていれば必要のないことかもしれませんが、信頼関係があればそもそも返金騒動など起こらなかったはずです。

本当に安心して遊べる仕組みになっているのでしょうか
本当に安心して遊べる仕組みになっているのでしょうか

ガチャ履歴の撤去に関して言うと、「運営では本履歴に関する操作は一切行っておりません。」とはしているものの、内容が疑わしいという指摘に対し、撤去をしたというのでは対応したことにはならないでしょう。不正な操作を行っていないのであれば、撤去する理由もありません。

さらに、300回以上ガチャを行ったユーザーへの救済措置ですが、70万円をかけても出なかった、という声があることを考えれば確かに改善されたと言えます。しかし300回という回数に、ガイドは大きな感覚のズレを感じます。今回対象となるガチャ300回というと、金額にして約9万円相当です。この施策について、サイゲームスは「お客様に安心してご利用いただくため」としています。

もし本気で、9万円課金したら好きなアイテムを1つあげるので安心してご利用ください、というようなことを提案しているのであれば、正気の沙汰ではないでしょう。これを例えばテレビCMで宣伝したら、最近のゲームは安心して遊べると、どれだけの人が思うのでしょうか。むしろ、ガチャと呼ばれる仕組みで起きている世界の異常性が浮き彫りになったと感じます。

そしてこの異常な状態は、ゲームそのものにも大きな影響を与えています。

■ガチャで儲けようとして、ゲームをつまらなくしている

これは、決してグランブルーファンタジーとサイゲームスだけの話ではありません。ガチャによる課金が過熱しすぎていて、一般社会の感覚から乖離し、異常な金額が積み上がっていますし、その中にはアンフェアな誘導が含まれているのではないかという指摘がされています。コンプガチャ規制以降、ゲーム業界はコンプガチャ以外の部分でも自主規制によって健全化を目指してきたかというと、一部団体などでそういう動きはあったものの、決して十分ではありませんでした。

何かゲーム業界は大事なものを見失ってはいないでしょうか

何かゲーム業界は大事なものを見失ってはいないでしょうか(イラスト 橋本モチチ)

また、ガチャによる収益構造は、ゲームそのものにも大きな影響を与えています。ガチャがあることでゲームがどうなるんだという話は、社会が注目している問題からすると実に些末なことに思われるかもしれませんが、だからこそ、ここでちょっと触れておきたいと思います。

実は、ゲームユーザーの中には、いっそガチャなんて規制されてしまえばいいと思っている人が、少なからずいると思います。彼らは必ずしも、ユーザーが使う金額が大きくなりすぎることを心配しているのではないでしょう。ガチャがゲームをつまらなくしていることを憂いているのです。

モバイル端末向けゲームの広告に「今ならSSRもらえる!」みたいな宣伝文句、とても多いですよね。SSRはガチャで当たる希少な景品ということですが、すごく違和感があります。これはゲームの宣伝ではないですよね。ガチャの宣伝です。今なら大当たりがでますよ、大当たりの景品もらえますよ、そういう宣伝です。

これでは、ゲームが好きな人ではなくて、単にお得な景品につられた人を誘うような形になってしまいます。しかし、メーカーはそれでいいのです。70万円使っても当たらなかったとか、救済措置で9万円課金したら好きなアイテムを1つプレゼントというような世界では、SSRの価値は非常に高いですし、その価値が分かる人はいいお客様ということになります。

そうすると、メーカーはいかに景品の価値を高め、それがもらえそうでもらえない状況を作り、さらにはガチャによって異常なまでの課金を煽る、というようなことに集中していきます。これはもう、ゲームの運営というよりは、ガチャの運営ですし、その為のキャラクター、その為の物語、その為のイベント、ということになっていきます。その時、ゲームは脇役になります。ゲームを面白くするためにガチャがあるのではなく、ガチャを面白くする調味料としてゲームがあるのです。

ガチャそのものが全て悪いというわけではありません、多くの場合は程度問題です。全てのゲームがガチャによって脇役に、調味料のような存在に追いやられてしまっているというわけでもありません。それでも、どうやったらガチャで儲かるかという方向に突き進んでいくことで、何か多くのゲームが得体のしれない集金マシーンに作り替えられているような気さえします。

この話は、今回のことがどれだけ大きな社会問題になっても、議論されることはないでしょう。ガチャを使った仕組みが、ユーザーの射幸心をあおって異常な金額を課金させるよう誘導している、という話に比べれば、ゲームが面白いかどうかなんてことはどうでもいいと言っていいぐらい社会の関心の外にあります。実際のところ、ゲームが面白くないからいけないわけでもなければ、ゲームが面白ければよいというわけでもありません。切り離して考えるえべきことです。しかし、ゲームに関わる人達にとっては、ゲームを遊ぶ人にとっても、作る人にとっても、やっぱりとても大事なことなはずです。

このまま放置していれば、業界の外部から規制の網がかかる可能性もあるでしょう。その時は、ゲームが面白くなるかなんてことを考える人はいません。規制された後、ゲーム業界がどうなるかを真剣に心配する人もいません。そうなる前に、業界内部による自主規制が望まれます。

コンプガチャ規制から4年、ゲーム業界はユーザーのことを考えていたでしょうか、ゲームがどうしたら面白くなるか考えていたでしょうか、何が問題の本質なのか考えていたでしょうか、ゲームの開発費や運営費をを回収する方法としてガチャが必要だとして、やり方によっては大変に危ういこの手法と、うまくつきあっていたのでしょうか。

期待しているユーザーがいます。いっそ、膿を出してしまえば、ゲーム業界が変わっていけるのではないかということを期待しているユーザーが。その期待に、応えるべきではないでしょうか。

【関連サイト】
田下広夢の記事にはできない。(ゲーム業界ニュースガイド個人運営サイト)

(執筆:田下 広夢)

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