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「どうして蚊はいいのに、蝶を殺すのはダメなの?」と子どもに聞かれたら、どうすればよいのか

■命についての「難問」

命の大切さを子どもに伝えたい。小さな命も大切にできる子どもに育ってほしい。そんな思いで子育てしている中、唐突に子どもからぶつけられる「どこで命の線引きをしているのか?」という質問。

おそらくこの問いに対して「これだ!」という、すっきりした答えはないと思います。どうしてだろうね、と、大人が子どもと一緒に頭をひねることそのものに、意味があるようにも感じます。他の生き物の「命を奪っていいのか、悪いのか」を決めている、人間の罪深さも突きつけられますよね。

ただ、命の大切さを日頃説いている大人としては、逃げずに向き合いたいところ。私がたどりついた「基準」は2つあります。

■基準1)ヒトの生活への悪影響

一般に、ヒトの健康的な生活に悪影響を及ぼすかどうか、という基準があります。ヒトが積極的に殺しているのは、ヒトの生活に被害を及ぼす「害虫、害獣」。これらは、ヒトの体を傷つける、病気を運ぶ、不衛生のもとになる、財産を破壊する、など、ヒトの生活にマイナスをもたらします。

ですから、たとえば、「蚊やゴキブリやネズミは、あなたを病気にすることがあるから殺すの」「あなたに悪さをしない、蝶やカブトムシや猫は殺さないようにしようね」といった答え方ができるかもしれません。

しかし、ゴキブリは見た目以上の害を人には与えないという意見がありますし、一般には害虫とされるダニやカメムシなどの仲間には、害虫を食べてくれる益虫もいます。また、猫がヒトの皮膚を傷つけることはよくあることです。そういった「例外」を含め、「答えが単純でないこと」を子どもと共有するのも大切なことではないでしょうか。

■基準2)ヒトの命をはぐくむ

次に、子どもから、「どうして猫を殺すのはダメなのに、牛や豚はいいの?」と聞かれたらどう答えますか? 「害虫・害獣」のほかに、ヒトが積極的に殺しているものが「魚」と「家畜」です。家畜は、食料や衣類、労働力など、ヒトの生活に利用することを前提に飼育される動物のこと。

「牛や豚は、あなたに食べられることで、あなたのからだを作ったり、元気のもとになったりして、生きていくことを助けてくれるからだよ」「命に感謝して、残さないように食べようね。『いただきます』は、命をいただきますという意味だよ」「猫は食べないから、殺したら猫が痛いだけだよね。だから殺しちゃダメなんだよ」といった話ができるかもしれませんね。

ただ、色々な「食文化」があります。犬や猫を食べる文化を持つ国もありますし、クジラを食べる日本は、食べる習慣のない国から批判されます。今はペットとして人気のうさぎも昔は食料でしたし、イナゴやザザムシは一般には害虫ですが、長野などでは佃煮にして食べられていますよね。「かわいそう」や「気持ち悪い」は、文化や価値観の違いからくるものですので、お互いに尊重し合えるようになるといいねという話にもつながりますね。

■大人こそ、じっくり考えたい問題

以前、ある農業高校で名前をつけて大事に育てさせたニワトリを、飼育した生徒に解体させて食べさせるという「命の授業」が、生徒の心に傷を残すのではないかと問題になりました。畜産農家の方々は、家畜には名前をつけないと聞きます。では、名前をつけていない、ペットショップで売れ残った犬や猫は殺してもいいのでしょうか。飼えなくなったペットを保健所に連れて行くのはどうでしょうか。引き取り手がなく殺処分されている犬や猫は、年間17万匹だそうです。

命の問題は、簡単に答えが出ないものばかりです。子どもの成長過程に応じて、子どもに理解できる言葉で、自分の考えを伝え、子ども自身が考えるきっかけをつくれるといいですね。結局、こういった命の問題に対してのただひとつの正解は「考え続けること」なのではないかと思います。

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