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川島永嗣とベルギーと肉団子

インタビューは、筋書きのないドラマだからこそ素顔が垣間見える

インタビューって、本当に難しい。

取材者として選手、あるいはその周辺のプロフェッショナルな人と向き合うと、いつもそう思う。

「される側」の選手にもいろいろと事情がある。そもそものキャラクターもある。その日の気分もある。疲れだってある。その日のトレーニングがうまくいかなかったかもしれないし、プライベートでイヤなことがあったかもしれない。もちろん逆もしかりで、いいことがあったばかりでものすごくテンションが高いかもしれない。

「する側」の仕事は、インタビューそのもの趣旨を踏まえた上で対象となる選手のありのままの姿を引き出し、文字を使って表現することだ。だから出会った瞬間、この人は今どういうテンションなのだろうか、そもそもどういうキャラクターなのだろうか、会話のテンポは自分と合うだろうかと探りながら、与えられた時間の中で「勝負」を仕掛ける。

ところが勝負に「勝ち負け」は付きもので、完敗も少なくない。

ダメな時は全くダメ。テンポが合わない。考え方が合わない。キャラクターが合わない。どれだけ合わせようと努めても合わない。もしかしたら「される側」だって、こちらに合わせてくれようとしているかもしれない。それでも合わない。そんな時は、「する側」としての力不足を痛感してその場で泣き崩れてしまいたくなる。

もちろん、これまた逆もしかり。合う時はピタリと合う。余計な計算をせずに話がすーっと進む充実感を感じられることが、ごく稀にある。

日本代表のGK川島永嗣のインタビューは、まさに後者だった。

もっとも、テンポや考え方やキャラクターが「合った」というより、「合わせてもらった」と言う方が正しい。しかしおそらく、彼にとってはこちらに「合わせた」という感覚はなく、その受け答えは終始ナチュラルだった。そう、この人はきっと、本質的に相手が何を求めているかを察知し、しかもそれを自分の言葉で表現できるのだろう。2時間を超えるインタビューを終えて、コミュニケーション能力の高さ、そして何より魅力的な人物だなと素直に感じた。

ベルギーでの取材を終えて帰国後、このインタビューをどんな記事にすれば彼の魅力が伝わるかを真剣に考えた。その結果、導き出した答えがインタビューを「再構成」しないドキュメンタリー風の紀行文である。と言うとちょっと大袈裟だが、インタビューを「する側」としていかに彼に救われ、素晴らしい気分にさせてもらえたか……そのドタバタ劇の顛末にこそ、彼の魅力が表れるかもしれない。

■川島永嗣は、言わずと知れた日本代表の守護神である

ユース年代から期待されていたサッカー界での評価はともかく、広く一般にその名前が認知されるきっかけとなったのが、今から3年半前の2010年ワールドカップ南アフリカ大会だった。世界の強豪を相手にビッグセーブを連発し、そのたびに見せる「ドヤ顔」で一躍脚光を浴びると、アルベルト・ザッケローニ監督が就任してからの3年半も順調にその実力と人気を高めてきた。

W杯直後の2010年夏には、ベルギーリーグのリールセに移籍。世界のGKと比較して体格的に劣る日本人、しかもチームメートに指示を出さなければならないGKが海外のクラブでプレーすることは難しいと言われ続けてきたが、川島は得意の語学を駆使してこの難題をあっさりとクリアした。英語、イタリア語、スペイン語、フランス語などを流暢に操るスマートな印象は、「ドヤ顔」との強烈なギャップも相まって彼の人気に拍車を掛けた。2012年からはベルギーサッカー界をリードしてきた名門、スタンダール・リエージュの守護神として活躍している。

果たして、「ドヤ顔」で日本のゴールを預かる守護神にして語学堪能、つまり文字通り文武両道な彼は、本当はどんな男なのだろうか。どうして彼は、男なら誰もが憧れる理想像を突き進めるのだろう。そんなざっくりとした趣旨を持って、彼の住む街、ベルギーのリエージュに向かった。

■順調な滑り出しには落とし穴が。カメラマン千葉からの1本の電話

フランクフルトでのトランジットを経てベルギー入りし、首都ブリュッセルに一泊。翌日は電車で約1時間半のリエージュに朝から向かい、ロケハンに臨んだ。

「ロケハン」とは取材場所を事前に調査することで、川島サイドからは「自宅とトレーニング場の中間くらい。町の中心部を避けて」との要望があった。あらかじめ検討をつけていたエリアに足を運び、すぐに雰囲気のあるレストランを見つけてここを翌日の取材場所と決める。川島本人に連絡を入れ、「10時半に集合しましょう」と約束。ここまで、実に順調である。

そして翌日、朝8時半にはホテルを出て、再びブリュッセルからリエージュへ向かう。ベルギーのみならず、ヨーロッパでは平気な顔して電車が遅れる。だから用心して、早めに出発する必要がある。ところが車中、この日の撮影をお願いしていた千葉 格カメラマンから電話があった。

「大変なことになってしまいました……」

千葉氏はかつて同じ編集部に勤務していた後輩で、編集者からカメラマンに転身した異色のキャリアの持ち主。今はドイツのデュッセルドルフに居を構え、欧州各地を飛び回っている。久々の再会を楽しみに、このインタビューの撮影を彼にお願いしていた。しかし、電話の向こうの声はえらくか弱い。

「電車が遅れて、乗り継ぎに失敗しました。リエージュへの到着は早くても11時半頃になってしまいそうです……」

欧州の電車事情を熟知する彼は、予定より1時間以上も早く家を出たという。ところが、その万全の準備を上回る不測の事態が発生した。川島の拘束時間は12時まで。11時半に間に合えば何とかなる……そんな思いで「間に合うから焦らずゆっくり来て」と伝えた。

■いよいよ待ち合わせ。編集とふたりで緊張して川島を迎える

こちらの乗る電車は15分程度の遅れで済み、リエージュ駅からタクシーに乗って昨日のロケハンで決定した集合場所へ移動。集合時間の5分前になると商店街の向こうから一台のポルシェが到着し、川島はこちらに気付いて軽く頭を下げた。

「はじめまして。はるばるベルギーまで来てくださって、ありがとうございます」

街中で、しかも私服姿で目の前に立たれると、スタジアムのミックスゾーンで見るよりもはるかに大きく感じる。

「こっちには昨日入られたんですか?」「どこに泊まっているんですか?」

そうフランクに話しかける姿が、絵に描いたような好青年であるという第一印象を一層引き立てた。レストランに着席し、まずはカクカクシカジカと事情を説明する。

「全然大丈夫ですよ。話しながら待ちましょう」

焦って詫びるこちらを尻目に、川島は全く動じない様子でそう応じた。さて、インタビューのスタートである。

……このあたりでインタビューを受けることってあるんですか?

「いや、あまりないのでちょっと場所を探しちゃいました。いつもは町中にあるホテルでやることが多いですね。でも、僕、中心部から離れたところの方が落ち着いていて好きというか」

……なるほど。何となく分かります。

「ベルギーって2つのエリアに別れているんです。『フラマン』というのがオランダ語圏で、『ワロン』がフランス語圏。どちらかというと『フラマン』の方が町の雰囲気が落ち着いていて、キレイで、過ごしやすいんですよね」

……リエージュは『ワロン』ですか?

「はい。だから今も、中心部から離れたところに住んでいるんです。練習場までは車で15~20分くらいかな。でも、やっぱりフランス語を覚えるという意味ではこっちの方がいいですね。使う頻度が違いますから」

……フランス語もかなりの達者であるとお聞きしました。

「まだまだ勉強中ですけど、だいぶ話せるようになりましたね」

……ちなみに僕も、大学の第2外国語の授業でフランス語を勉強したんですけど、全く話せません。都合良く「je ne sais pas(=I don’t know)」という言葉しか覚えてないくらいで(笑)。

「(笑)。でも、フランス語は難しいですよね。僕も苦労してます」

……ちなみに今は何カ国語をマスターされているんでしょう?

「英語はある程度普通に話せるし、イタリア語もそう。フランス語はようやく、イタリア語と同じくらいのレベルになってきたかなという感じです。あとはスペイン語とかポルトガル語はちょっと。コミュニケーションは取れる、という感じですね」

……川島選手の語学力についてはこれまでかなりクローズアップされてきましたけど、ご自身の感覚とのギャップはないですか?

「いや、『全部マスターしている』って言われると、それは語弊があるんじゃないかと思いますけどね。最初に言われ始めた頃はちょっとプレッシャーでした。でもまあ、最近は普通にコミュニケーションが取れるので、まあいいかなと(笑)」

……そりゃあ、プレッシャーも感じますよね。

「そうそう、『ちゃんと喋れなかったらどうしよう』って(笑)」

ベルギーに来てからフランス語の勉強を始めたが、スケジュールの調整が難しい家庭教師とのマンツーマン授業を諦め、最近はすべて独学で学んでいるという。それが彼の基本的な勉強スタイルで、「これをやってみよう」「次はあれを試してみよう」と好奇心の向くままに自ら動き、自分に合うスタイルを作り上げてきたそうだ。

単語力が足りないと思えば1日1記事のニュースを読み、分からない単語を調べて頭の中に入れる。しかし本人は「もともと勉強は得意じゃないんですよ」と笑顔を見せた。

「試験のために勉強するというスタイルがイヤで、というか苦手で。だから、授業だけ真剣に受けて試験勉強をやらないようにしたんです。だって、授業の内容さえちゃんと頭の中に入れておけば、ある程度の点数は取れるじゃないですか」

……すごくよく分かるんですけど、それって、いわゆる東京大学に行く人の勉強スタイルですよね(笑)。

「そうなんですか?(笑) 自分ではそれしかできないという感じなので、何とも言えないというか。ただ、学生の頃から『サッカーやってるから』という理由で勉強をやらないと思われるのがイヤでした。朝練があって、夜も遅くまで練習していましたけど、授業中に寝たことは一度もなかったですよ」

……すごいですね。僕は恥ずかしながらその逆で、ずっと寝てました(笑)。

「(笑)。僕の場合、当時の先生にも『目標を達成したいなら自分で工夫しなさい』と言われていたし、そういうやり方が向いているのかもしれませんね。GKコーチもいなかったので、自分に足りない部分を感じて、自分で努力するしかなかったというか。そういうやり方が身に染み付いているんだと思います」

そうした姿勢について「ストイックですね」と投げ掛けると、川島は「いや、全然ストイックではないんですよ」と応答した。

メモ帳とボールペンを手に店員が歩み寄ると、川島はフランス語を会話しながら笑顔でサインを書いた。彼の語学力に触れるところからスタートしたロングインタビューは、なおも続く。

(All About FOOTBALL編集部・細江克弥)

<関連リンク>
川島永嗣とベルギーと肉団子 vol.2
サッカーを着こなす!vol.01 「サッカージュンキー」
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