ライフ

「SL銀河」に乗って宮沢賢治の世界へ

数奇な運命を辿った「SL銀河」用客車

C58+青い専用車両の「SL銀河」編成
2014年4月12日からJR釜石線(花巻~釜石)での年間運行が始まった震災復興支援の観光列車「SL銀河」。釜石から遠野までの区間における「汽車旅」を体験することができたのでレポートしよう。

C58形に牽引される4両の青い車両は、元々は赤い50系客車として誕生。その後、ディーゼルエンジンを取り付けられ機関車なしで自走できるディーゼルカーに「変身」し、JR北海道の札沼線で活躍した。札沼線の札幌近郊区間が電化され、電車に取って代わられたため、職を失ったところ、「SL銀河」用として機関車に牽引される客車に復帰したものである。但し、釜石線には勾配のきつい区間があるため、ディーゼルエンジンを駆動して蒸気機関車をサポートするという前例のない運転方式をとることとなった。したがって、車両に表記されている形式は「キハ」とディーゼルカー(気動車)のままである。
青の濃淡が特色の4両の旅客用車両
4両編成の青い車体は、全く同じ青で塗装されてはいない。花巻寄りの1号車が明るい青となっているものの、釜石寄りの4号車に進むにつれて青が濃くなり、最後は濃紺になるというようにグラデーション塗装がほどこされている。デザインを担当した奥山清行氏(フェラーリなどのデザインで世界的に有名)によると、「夜が明け、朝へと変わりゆく空を表現」したとのことである。また、銀河をイメージして外装は星が散りばめられ、ところどころに星座をイメージした白鳥、さそりなどの動植物のイラストが数多く描かれた賑やかなものとなった。

では、車内をご案内しよう。

■車内は座席と様々な趣向が凝らされたスペースが盛りだくさん

窓の上にステンドグラスがある座席
客室は、ノスタルジックなムード一杯のレトロ感あふれたもの。赤茶色をメインとした暖色系の座席、木目調の柱が好ましい雰囲気を出している。星座や南部鉄器を思わせる細やかな仕切りも大正ロマン風に仕上げている。各ボックス席の窓の上部には半円形のステンドグラスがあり、宮沢賢治が好んだ欧風スタイルを再現。彼の創り出した世界へ誘ってくれそうだ。

1号車の後半から2号車、3号車は客席だが、車端部には宮沢賢治のギャラリーと小さなソファーがあって、寛ぎのフリースペースとなる。各車両ごとにテーマが決めてある。
1号車(後半)=沿線ゆかりの作品展示
2号車=イーハトーブと賢治
3号車=銀河鉄道の夜、など

■ユニークなイベントコーナー

プラネタリウムに投影される星空の映像
1号車前半には座席はなく、「月と星のミュージアム」とプラネタリウムがある。列車内のプラネタリウムというのは、恐らく初めての試みだろう。数人しか入れない小部屋が真っ暗になり、天井に夜空が投影されるとともにオリジナルな「銀河鉄道の夜」の世界が9分程続く。時折鳴り響く、C58の本物の汽笛が効果満点となって夢の世界に漂っている気がしてくる。
4号車の「SLギャラリー」
一方、4号車は、車両すべてがフリースペースで、宮沢賢治ギャラリーとSLギャラリーが大部分を占める。大きなソファーで寛ぎながら、壁に飾られたセピア色の写真の数々を眺めたり、棚に置かれた蒸気機関車の模型や宮沢賢治の絵本などを読むことができる。売店も設置の方向で検討しているようで、「SL銀河」グッズや宮沢賢治関連商品を売ることになるようだが、まだ不確定の部分があるようだ。

■「SL銀河」の車窓から

釜石線の名所「めがね橋」を渡る「SL銀河」
釜石を出た列車は、甲子川(かつしがわ)を渡ると、谷あいに細長く延びた市街地に沿って西へ向う。線路際には住宅が多く、汽笛が響くと、外に出たり窓からのぞいて汽車に手を振る人が多い。早くも「SL銀河」は地域の人気者になっている。かつて鉱山があった陸中大橋で小休止。ここから仙人峠の難所だ。

大きな汽笛が山間に響くと、一呼吸おいてディーゼルカーの甲高い警笛も鳴る。機関車のすぐ後ろの1号車の先頭にも運転台があり、運転士が乗りこんでいるのだ。蒸気機関車をサポートすべく機器類を操作。列車は長いトンネル内で勾配を上りつつ左へ左へとカーブする。ほぼU字形に曲がりながら峠を登る。林の間から進行方向左手の窓から眼下を見下ろすと、先ほど停車していた陸中大橋駅が見える。線路に平行した道路端からは何人もがカメラを構えて山を登る列車を撮影している。

いくつものトンネルを抜け、やがて長いトンネルに入るとすべては闇の中。ようやく外に出たところが上有住。滝観洞(ろうかんどう)という鍾乳洞の最寄り駅だが、人家は全くない淋しい秘境駅である。
釜石線を驀進する「SL銀河」
再び長いトンネルをくぐり、足ケ瀬を過ぎると、ようやく山間部ののどかな景色へと移っていく。岩手上郷あたりからは人家も目立ち、山々に囲まれた盆地のような穏やかな田園風景の中を遠野へと向かう。

試乗会は遠野までだったが、ここまででも2時間弱の変化に富んだ旅が体験できた。遠野で1時間少々の長い停車時間があり、この間、C58は一旦列車を切り離して、ホームの先で給水や点検を行い、旅の後半に備える。

遠野から花巻までは1時間半ほどの行程。全区間を乗り通せば4時間半近い長大な汽車旅となろう。本運転では、1日目(主として土曜日)が花巻から釜石まで、2日目(主として日曜日)が釜石から花巻までというように2日かけての往復となる。沿線で1泊して、のんびり旅を楽しみつつ、復興のために観光面からの支援ができればと思う。

<関連リンク>
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野田 隆 Facebookページ
 
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