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大久保嘉人のやんちゃの美学~サッカーが楽しくてしょうがない!編

それにしても、彼は変わった。

キャリア14年目。思えば、デビューしたばかりの頃はとにかく“やんちゃ”だった。得意のドリブルで何人もの相手を抜き去ってゴールしたかと思えば、荒々しく激しいプレーで相手に立ち向かい、時には小競り合いも起こす。レフェリーの判定に異議を唱えてイエローカードを受けるのは“いつものこと”で、レッドカードを提示されて怒り狂う姿も珍しくなかった。そうしたプレースタイルから、まるで海外によくいるビッグスターのように「悪童」の異名を授かったこともある。

ところが、近頃の大久保からは若かりし頃の邪気が感じられない。

ピッチに立っている時はいつも楽しそうで、余裕しゃくしゃく。イラ立ちを感じさせることは皆無に等しく、活き活き、伸び伸びとプレーしながらサラリとゴールを奪う。どうした大久保。ずいぶんスマートじゃないか。

果たして、14年のキャリアでいったい何があったのか。何が彼を変えたのか。午前中のトレーニングを終えてインタビュールームにやって来た大久保は、やはりニヤニヤと笑みを浮かべ、「お願いします」と爽やかに腰を下ろした。

■周りから何を言われても全く気にならないんですよ

――トレーニング、お疲れさまでした。『オールアバウト・フットボール』では、ざっくりとしたテーマを設けてお話を聞いているんですが、大久保選手には「やんちゃ」とキーワードを軸にインタビューさせていただきたいなと。

「ああ、はい、なるほど(笑)」

――ああ、クラスに一人、必ずいますよね。自分を大きく見せようとしてしまうというか。

「そうですね(笑)。俺、デビュー戦で途中出場なのにいきなりイエローカードもらったんですよ。それでちょっと有名になったところもあるから」

――ということは、むしろそれもアリだと思っていたんですね。

「はい。完全にアリだと思っていましたね。こんなこと言っていいのかな」

――もう14年も前の話ですから、時効です(笑)。

「ですかね(笑)。だからもう、周りから何を言われても全く気にならなかったんですよ。静かな選手ばかりじゃおもしろくないし、一人くらいそういう選手がいてもいいかなって。外国に行けばそんな選手ばかりだし。そう思って、それからはもう、そのスタイルで突き進みましたね」

――へえ~、おもしろい!

「だって、アレがなかったら今がないと思いますもん」

――確かに。その一言に大久保選手のすべてが表現されているような気がします。

「もちろん、わざとイエローカードをもらったり、退場したわけじゃないですよ。でも、あえてガツガツ行ったり、ちょっと無茶したりということはやってましたね」

――そっか……。じゃあ、本人にとってもあの頃の自分は“いい思い出”というか。

「完全にいい思い出ですね(笑)」

――しかし、よく貫きましたよね。そのスタイルを。

「周りからはいろいろと言われましたけど、逆に『そういう選手がいないから、いいんじゃないか』と言ってくれた人もいて……でもまあ、やっぱり周りは関係なかったですね。やるのは自分だし、損をするのも得をするのも自分なんで」

――今シーズンでプロ14年目だと思うんですが、大久保選手、この14年間でめっちゃ変わりましたよね?

「やっぱり変わりましたよ。うん、変わりましたね。結婚して、子どもが生まれて、子どもの成長とともに自分も変わってきた気がしますね」

――親としての責任感?

「というか、子どもが学校で言われちゃうじゃないですか? 『お前のお父さんは……』って。そっちを気にしますね。そういう思いは強いです」

――なるほど(笑)。じゃあ、今振り返ると、デビュー当時の自分は「ちょっと無茶してたなぁ」って思いますか?

「そうですね。ただ、当時は特に自分と同じようなプレースタイルの選手がたくさんいたんですよ。そんな中で、目立たないといけない。自分の性格がそうなんですけど、何て言うか、こう、イエローカードだったり、退場だったり、そういう悪い方向に持っていってしまうところがあるというか」

■ただ、サッカーに関しては目立ちたい。負けたくない。

――でも、日本代表に入ったばかりの頃はなかなかゴールを奪えない時期が長かったじゃないですか。一方でやんちゃな側面ばかりが目立つもんだから、「そろそろ落ち着けよ」という雰囲気もあったと思うんですけど。

「いや~、それも全く気にならなかったです。やるのは自分だし、活躍しなければ自分の責任だし、逆に目立てばそれで一気にひっくり返るし。俺らがいるのって、そういう世界なんで。だから、そういう思いは今も変わらないですけどね」

――「活躍できなかったら」という“ビビリ”もなかったんですね。

「なかったですね、一切。切り替えもすごく早かったし。楽しみながらやってたというか。やっぱり、周りの目を気にする人は多いと思うんですよ。でも、俺の場合は全く。『これやったらこう思われる』とか、一切気にしてませんから」

――いや、でも、そうは言っても周りの目を気にするのが普通だと思いますよ。

「だって、サッカーに関して結果を出すかどうかは自分次第だし、逆に自分のことは自分でしか守れないじゃないですか。周りの目を気にして、その結果、縮こまったプレーをして何もできなかったらもっと言われるわけで。自分が思った通りにやって失敗した方が、納得できます」

――なるほど。

「結果が良い方に転がれば、ちょっとしたことですぐ『アイツ、すげえ!』ってなりますよね。でも、反対に、本当にちょっとしたことで『アイツは使えねえ』って言われることもある。紙一重でどっちかに転ぶだけなんで、だからこそ自分が思ったことをやった方がいいなって、俺はいつも思ってるんですよ。最後は自分が決めた方が納得いきますよね」

――よく分かります。でも、それでも結果が良い方に転がらない時期って、ありますよね?

「ありますね。それも自分の責任だし、すごくモヤモヤしますよ。だから、思った通りにやってずっとダメだったら、何かを変えなきゃいけないと思うこともあるんです」

――でも、変えない。

「変えないっスね、結局。もちろん相談はします。いろんな人に相談はしますけど、結局何も変えないですね。というか、プレーは変えられても、性格や考え方は変えられない」

――そういう性格って、どこにルーツがあるんですか?

「え~、どっからだろ……」

――もともと目立ちたがりなんですか?

「サッカーに関しては。普段は別に……みんなと喋るわけじゃないし、練習が終わったら一目散に家に帰るし。どちらかと言えば静かなタイプですよ」

――人が嫌いなわけじゃないですよね?(笑)

「はい。ただ、サッカーに関しては目立ちたい。負けたくない」

――なんで、ですか? ヘンな質問ですけど。

「なんで?」

――はい。

「サッカーが好きだし、めちゃくちゃ楽しいから、ですよね」

■今思えば、「バカだなコイツ」って感じですよ。

しかし、外から見ていて、今のように楽しそうではない時期もあった。それが、デビュー当初の「やんちゃ」だった時期である。鋭い眼光でいつも相手を睨みつけ、うまくいかない時にイラ立ちを隠せなかったあの頃――。だからこその爆発力が彼の魅力だったわけだが、本人は「恥ずかしい」と笑う。

――キャラクターや考え方は変わらないとしても、プレーの面ではだいぶ変わりましたよね。

「はい。相当変わったと思いますよ。昔の映像をたまに見たりするんですけど、もう恥ずかしくて、恥ずかしくて。『よくこれでサッカーやってたな』って本気で思いますもん(笑)。プロになったばかりの頃は、“イケイケ”過ぎて恥ずかしい」

――いや、個人的には超カッコ良かったと思いますよ。

「いやいや、全然ダメです。今思えば、『バカだなコイツ』って感じですよ。キープすればいいのにわざわざドリブルで仕掛けてチャンスをぶっ壊したり。今は『行ける!』と思った時しか行かないし、ちょっとでも『無理かな』と思ったら相手を引きつけてパスを出したり、タメを作ったり、無理してシュートを打たずにパスを出したり、落ち着いてプレーできるようになりましたから。自分でも分かるほど、プレーに余裕があるんですよね」

――そういう意味では、プレースタイルが変化するきっかけみたいな出来事はあったんですか?

「やっぱり、スペインのマジョルカでプレーしていた頃ですかね。ずっと試合に出ていたのに、最後は試合に出られなかったんで。その時に『どうすればいいのか』を考えたし、プレースタイルについて悩むこともありました」

――どうして試合に出られなくなってしまったんでしょう?

「実は、練習に遅刻したんですよ。それ以来、出られなくなっちゃって(笑)」

――監督は厳格な指導方針で有名なエクトル・クーペルでしたね。

「はい。めちゃくちゃ厳しかったですね。日本人みたいに規律を重んじる人でした」

――過去のことを掘り起こすようでアレですが、確か、大久保選手はセレッソ大阪時代にも……。

「はい。遅刻しました。しかも1年目の最初の2日間、連続で(笑)。でも、今はもうないですよ。あれ以来、改善されました。今はどちらかというと時間にきっちりしているタイプなんで」

■めっちゃ楽しいです。本当に楽しい。

――プレーの面で、僕が個人的に「変わったな」と感じたのは、ドイツから帰って来たタイミングでした。2009年かな。

「そうですね。ヴィッセル神戸で左サイドのMFを任されるようになって、それから周りが見えるようになってきたんです。海外でプレーしていたという自信もあって、落ち着きが出てきたんですよね。その頃から、自分でもちょっとプレースタイルが変わったなと分かるようになりました」

――ただ、MFにポジションを下げたことで、ゴールまでの距離が遠くなってしまった。

「そうそう。だから、正直に言えば、『もの足りないな』と感じることもありました。サイドMFなのにボランチの位置まで下がってプレーすることもあったんでね。それで『大久保は点が取れない』とか『もう終わった』とか言われるようになって、やっぱりゴールに絡む仕事がしたいという思いも強かったんで」

――川崎フロンターレでは、まさにゴールを決める仕事を期待されていますよね。

「はい。だから、めっちゃ楽しいです。本当に楽しい。こんなチームがあったんだって思うくらい。(風間八宏)監督の伝え方もすごくうまいし。また勉強になったなぁって感じです」

――2013シーズンは得点王に輝きました。

「このチームに来て、1トップのポジションを任された時点でやることは決まってるんです。ゴール前で勝負する。(中村)憲剛さんはじめ、パスを出してくれる人はいますから。だからそういう仕事はチームメートに任せて、俺はゴールを奪うことに集中できる。それは大きいと思いますね」

――ですよね。

「神戸の頃は本当にいろいろやってましたからね。そう思うと、逆に、監督としても使いにくい選手だったんじゃないかなって思います」

――なるほど。でも今は、ホントに楽しそうにサッカーやってますよね。若い頃の「行ったる!」みたいな雰囲気を持ちつつ、大人になってからの余裕もにじみ出ているというか。

「そうですね。今は楽しくサッカーしてるんで。『何してやろうかな』という選択肢が、自分の中にいっぱいある感じなんですよ」

――キャリアの中で、今の自分が一番サッカーがうまいと思います?

「間違いないです。最初に比べたら全然。それは確実じゃないかな」



さて、話を整理してみよう。一人の人間としての大久保嘉人は、考え方やキャラクターにおいては何も変わっていない。子どもの誕生と成長を機に「変わった」と話すが、面と向かって話していると、そうした性格も彼本来のキャラクターに備わっているものであることが分かる。

しかし、サッカーに関しては、所属チームや環境を変え、ポジションを変えながら大きく変わった。その変化はピッチにも表れ、今の大久保には以前の刺々しい“悪童感”が全くない。

インタビュー中の大久保は、ずっとニヤニヤと笑っている。「ニヤニヤ」というのは決してネガティブな意味ではなく、話しているこちらも思わずニヤニヤとしてしまう爽やかな笑顔だ。インタビュー後編では、彼にとって「チームプレー」とは何か、意外な一面とは何か、そして、日本代表への思いについても話を伺う。

大久保嘉人のやんちゃの美学~ヒーローになりたい!編


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