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海水浴場で「大腸菌」を調べる理由

■海水浴場で「大腸菌」を調べる理由

海水浴シーズン前には保健所による水質検査が定められています。そして、一定基準以上の“大腸菌群”が検出された場合には閉鎖することが決まっているため、“海開きが延期”という事態が起こるのです。大腸菌群が検出された場合に海開きが延期されるのは、大腸菌が“腸内”に生息する菌であることから、“大腸菌が存在する”と、“糞便によって水が汚染されている”ということになるからです。大腸菌は、「河川」「湖」「海水浴場」などでの環境水の汚れの程度の指標として用いられているのです。水が汚染されている場合は、大腸菌だけではなく他の有害な菌も多い可能性があります。水が汚染されていたために、腸炎の集団感染が発生したという事例も報告されています。

■プールの水が原因で「腸管出血性大腸菌」に集団感染

2012年8月、長野県東部の保育所で、プールの水が原因で「腸管出血性大腸菌」感染症O26の集団感染が起こりました。腸管出血性大腸菌O26は、「ベロ毒素」という極めて有害な毒素を産出することで知られています。腸管出血性大腸菌に感染すると、激しい下痢や腹痛、血便が起こり、死に至ることもあります。この保育所ではプールの水を塩素消毒していないなど衛生設備の不備が指摘されました。「保育所における感染症対策ガイドライン」では、“年少児が利用することの多い簡易用ミニプールも含めて、水質管理の徹底”や“プール遊びの前のシャワーとお尻洗いの徹底”などが推奨されています。
 

■大腸菌すべてが病気を引き起こすわけではない

ただし、大腸菌といってもすべての大腸菌が悪さをするわけではありません。大腸菌は私たちの腸管内で共生している腸内細菌のひとつです。大腸内に大腸菌がいることは当たり前のことであり、逆に大腸菌からビタミンをもらったり、消化を助けてもらったりもしています。大腸内に大腸菌がいても無害なのですが、人間社会と同じように悪いヤツは一定数いるもので、そういう大腸菌は“病原性”大腸菌と呼ばれています。この“病原性”大腸菌が体内に入るといろいろと悪さをするのです。

■有害な大腸菌、「毒素原性大腸菌」「腸管出血性大腸菌」

病原性大腸菌のうち頻度が高い2つを紹介しましょう。

■毒素原性大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli, ETEC)

この菌は旅行者下痢症として有名です。熱帯、亜熱帯地方を旅行する際に、「生水を飲んではいけない」と聞いたことがありませんか? 多くは衛生状態の悪い水を介して感染し、下痢や腹痛を引き起こします。発熱はさほどありません。

■腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli ,EHEC)

腸管出血性大腸菌の中で有名なものがO157です。他にもベロ毒素という有害な毒素を出すものがいくつか存在しますが、O157が最も多く全体の約80%を占めています。腸管出血性大腸菌に汚染された食物を食べることで感染します。激しい腹痛や下痢、血便を引き起こし、小児や高齢者では溶血性尿毒素症症候群(HUS)を続発して死に至ることもあります。この菌を保有したままで「海」や「プール」に入ると、菌が水中にまき散らされ、水を介して周囲の人々に感染させる可能性があるので注意が必要です。
 

■全国の「海水」「湖沼」「河川」の水浴場で行われている水浴場水質調査

全国の水浴に供される公共用水域の水質を確認するために、開設前調査については毎年度5月中旬から6月上旬までの間、開設中調査については毎年度7月下旬から8月中旬までの間に、保健所による水浴場水質調査が行われています。調査対象項目には、ふん便性大腸菌群数、油膜の有無、化学的酸素要求量(COD)、透明度(水素イオン濃度(pH)、病原性大腸菌O-157)が含まれています。

■泳ぐ前には水質を確認しましょう

海水浴などに行く場合は、市町村のホームページなどで「水浴場水質調査」を確認してから行くようにした方がいいでしょう。もちろん、水浴場の水質を調査していない場所で遊泳ができないわけではありませんが、水質検査をしていない海や河川などでは、水が汚染されている可能性も あるので注意が必要です。菌やウイルスの感染は「経口」感染が多いので、心配ならば“顔を水につけない”、“水を飲み込まない”という予防策も有効と言え るでしょう。(執筆:今村 甲彦)

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