ワーキングマザー界隈でよく言われる「小1の壁」。
世間では、子どもが小学生になると子育てがひと段落すると思われていますが、実はそうではありません。会社側の期待とは裏腹に、ワーキングマザーへの負荷はむしろ増えてしまいます。具体的には、
・放課後、保育園の代わりとなる「学童」の運営時間が「保育園より短い」
(企業においては「時短勤務は小学校入学前まで」というような制度を敷いているところが多い。つまり「子どもが保育園の頃より早く帰宅するのに、親の帰宅時間は変わらない、むしろ遅くなる」→仕事を継続しにくくなる)
・行事やPTA、学業のフォローなど、親の参加が必要な物事が増える
・子どもが成長することにより、コミュニケーションが複雑化、子どもが見えにくくなる
といった内容が挙げられます。
こうした「小1の壁」問題がワーキングマザー界隈でしか知られていない内輪用語のままなのは、あまり好ましくないと思っています。これらの原因は社会・企業構造的な問題であることが多く、当事者である母親が、ひとり頑張って解決できる問題ではないからです。
そこで今回は、母親を「取り巻く周囲」である企業、地域、家庭(主に夫)、そしてPTAが、それぞれどう変わってくれたら嬉しいのか?という観点で書いてみようと思います。
■<企業>勤務時間や休暇について柔軟な制度を
企業には、何より「小学校に入れば子育てが格段に楽になる」という勘違いを改めてほしいな、と思います。
多くの企業では、今も「時短勤務(およびそれに準ずる子育て支援制度)の利用は小学校入学まで」というルールが敷かれているようですが、前回も書いたように「格段に楽になる」ことはなく、帰宅時間に関してはむしろ早める必要すらあります。
私の周囲のお母さんたちの話を聞くと、「小1の壁」の主たる悩みは、やはり「時間」に関することが多いようです。朝と夕方、子供と同じタイミングで家を出たり、帰宅したりできるか? 子供が小学校生活に慣れるまで、彼らの生活時間にある程度合わせた働き方ができるか?
父親が早朝に家を出る、祖父母が遠方に住んでいる、学童保育が学校や家から離れている、学童保育の閉所時間が早い、などの条件がいくつか重なると、仕事が続けられなくなる可能性が高くなります。
・朝、夕の勤務時間が固定でない(フレックス勤務等が導入されている)
・全休以外にもうまく半休や時間休が取れるようになっている
というような制度がまずは必要ですし、きちんと機能させてほしいところです。その他にも、
・そもそも勤務時間あたりの給与ではなく、生産性を評価できるような評価システムがある
・従業員を信用し、在宅勤務など柔軟な勤務スタイルを選べるようにしている
・一時的に待遇を変えることがあっても、解雇はしないことで家庭の事情に対応できる
などの仕組みがあれば、「小1の壁」を起因とした従業員の退職を防ぐことができるのではと思います。
これから季節が冬に向かい、日没がどんどん早くなります。子供をひとりで下校させるのは危ないのではないか? と悩んでいるお母さんもいます。可能な限り、そういった「超現場」の悩みをバカにせず、耳を傾けてあげてほしいなと思います。
■<地域>子供たちが放課後を過ごす「学童」に期待しています
子供が小学校に上がると、「幼稚園の頃は働いていなかったが、そろそろ働きはじめたい」というお母さんも出てきます。地域によっては、そういう方が「学童やファミリーサポート(自治体が運営するもの)が足りていない。申請するだけでは使えない」ということで悩んでいたりします。
これは保育園の待機児童の問題とほぼ同じで、入所にはフルタイム勤務の人が有利であるため、例えば「まず1日数時間の仕事から始めたい」という人のニーズを満たせていないのだと思います。再び働きたい人が望み通り働けないことは、社会的に大きな損失なので、自治体にはぜひ頑張ってもらいたいと思います。
自分で利用しはじめて感じたこととしては、学童も学校も同じ自治体が運営しているのに、相互連携があまりないのですね。うちの子の学校に限ったことなのかわかりませんが、学校側が「学童に通うお子さんの保護者の方は・・・」と何かしらのレターを出す、ということが全然ないのです。そんなもんなのでしょうか。
最近は学校の敷地内にある学童も多く、安全面などを考えると大変良いことですが、場所は近いのにあくまで別組織なんだな・・・と感じることもあります。
ただ、よくよく思い返してみると、うちの親の時代には「学童がなかったから、自分たちで指導員を探して雇って運営した」と言っていたような・・・。私自身が小さい頃に通っていた学童と比べても、うちの子が今現在通っている環境の方がはるかに良くて、期待できます(ちなみに今は、専業主婦のご家庭でも放課後に学校を使えるクラブが運営されていたりもしますよね)。
うちの学童には保育園からのママ友やパパ友もいるので、学校との連携や何か改善が必要になれば、主体的に働きかけるのもいいかな、と考えています。
■<家庭>共働きで母親だけ家事育児は、小学校では「無理ゲー」
「子供が小学校入ったら、仕事もう無理」というお母さん方の話を聞いていると、「夫を当てにする」という選択肢がないことが多いように思います。
私も子供が小学校に上がってから「保育園」という場のありがたさをしみじみ感じたのですが、そもそも家事育児負担が「夫:0 妻:100」と母親に偏り過ぎているような家庭であっても、小学校入学前は、保育園が「バーチャル家族」として機能するぐらい、夫不在がちの共働きやシングルの家庭に最適化されているため、なんとかなっていたのでしょう。
その保育園がなくなり、かつ子供が幼児を卒業することで精神面や学業面でのフォローも必要になり、母親がはしごを外されたような状態になって、大きくバランスが崩れる・・・ということが、いわゆる「小1の壁」現象ではないでしょうか。
まだ「1年生」しか体験していないので、この時期の話で言うなら、父親が夏休みのお弁当づくりや、宿題を交代で見てやれるか、子供に人間関係のトラブルなどが起きたときに母親と一緒にフォローできるか、などがけっこう大きいような気がします。
私に関していうと、今は「小1の壁」の難しさをほぼ感じておらず、それは夫がかなり家庭シフトして、長男の精神的ケアから細かい家事までいろいろやってくれているからだろうと思っています(でもその分お金は減ってるので、家計的には楽ではありませんけど・・・)。とくに、学業面のフォローは幼児期の「お世話」より荷が重く、夫も当事者意識を持って対峙してくれると「ふたりで悩めばいいんだ」と気持ちが軽くなります。
現実的には、フルタイムの父親が育児参加するにはまだまだ困難が多いのかもしれません。しかも、小学校はPTAや懇談会などが「母親の世界」ですから、保育園よりも父親が育児参加するハードルが高くなっているような気がします。
かといって、お母さんひとりが悩んでひとりで(退職・・・などを)決断する、ということがないよう、ご夫婦でいろいろシミュレーションしておくとよいかもしれません。そして、小学校の行事など母親たちの「女の園」で踏ん張るお父さんたちのことは、陰ながら応援したいな・・・と思う所存です。
■<PTA>専業主婦家庭と共働き家庭で、共に運営していける体制に
うちの小学校では、親同士の交流を深めるための会が開かれているのですが、数回あった全部が「平日昼間開催」だったことが、私は地味にショックでした。保育園の頃は、そういった集まりは基本的に土曜日だったので、どうして土曜日にできないんだろう? と思ってしまったのです・・・。
「小1の壁」とは、こういった「母親の世界(の暗黙のルール)」の中に身を置くことなのだな、と感じました。
しかし、実際に平日の集まりを主催しているお母さんたちが「平日に仕事をしているお母さんを排除しよう」としているのかというと、特にそうじゃなさそうです。それはやはり利便性だったり、これまでの慣習だったりを優先しているわけです。思い切って役員さんに質問してみると、「お仕事していると平日は難しいですよね、すみません・・・」という言葉とともに、今後の予定について温かい返事が返ってきました。勝手に卑屈になってはいかんなー、と感じた出来事でした。
専業主婦家庭と共働き家庭の両方が存在する現代だから、お互いがお互いの立場や事情、考え方を尊重できればいいなと思います。ただ、昔より共働き家庭の数が増えている以上、PTAなどの活動のあり方も、時代に合わせて変えていくことが必要な部分も出てくるでしょう。私も来年以降、PTA役員を実際にやってみて、いろいろと考えたいなと思っています。
■「自分が働きかける、変える」という道を忘れない
今年の6月にワークライフバランス・カフェ*1で、仕事と育児の両立に関する交流会を開きました。その際に会話テーマで一番人気だった(テーブルがひとつでは足りないくらい盛況だった)のは、「今いる組織を中から変える」というものでした。
大小を問わず、両立に関する「壁」を感じる機会は今もなお存在します。けれど、愚痴ったり嘆いたりするだけでなく、当事者として「自分が働きかけ、この場所を変えてみよう」という人が、同世代にこんなにいるのか・・・!と、私はそのときとても驚きました。
ママ友と立ち話をしていると、ときどき「ああ、昔こんな感じで、教室の隅っこでいろんなこと喋っていた、同じクラスの子たちみたいだなぁ。気がついたら私たち、お母さんになっているね・・・!!」なんて、感慨深く思うときがあります。
PTAにしても、相手がすごく年上だとか年下だとか大きく世代が違うのなら「わかってもらえるだろうか?」という不安も生まれそうですが、でも「だいたい同世代だもん、同じクラスに居たかもしれないメンツだもん、なんとかなるんじゃね? 話せば、わかってもらえるんじゃね?」なんて思ってしまう私は甘いでしょうか。
「違う立場」であることを必要以上に怖がらず、コツコツと説明して理解し合って・・・とやっていくしかない、近道はないんじゃないかな、と思っています。結局「壁」という表現は、私たち自身(の本当の気持ち、ありたい姿)と、取り巻く周囲の間に「断絶がある」ことに他ならない、と思うからです。
「壁を越える」とか「すり抜ける」といったサバイブ術も大切かもしれませんが、やっぱり、そもそも子供が小1に上がるときに「壁」なんか必要ないと思います。私がこういった記事を書くことも、また「壁」をなくすための一助になれば嬉しいなあ。
同じ想いの皆さん、いっしょに、ぼちぼち、頑張りましょう。
(執筆:kobeni)
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