消費者庁が2015年10月に行った調査では、トイレの後に手洗いをしない人が15%超いることが判明しました。こんなにいるの?と思われた方も多いはず。しかし、当たり前のように手洗いを行ってきたからこそ、意外とそのメリットが実感できていないのかもしれません。今回は改めて、手洗いをしないリスクについて考えてみましょう。
消費者庁では、全国の消費者を対象に家庭での手洗いに関する意識・行動のアンケート調査を実施し、その結果を基に手洗いでの大切なポイントをまとめました。
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調査から、15.4%の方がトイレの後に手を洗わないことがあるという結果が得られました(「小便後又は大便後に手を洗うのどちらかを選択しなかった方」、「どちらも選択しなかった方」、「トイレで手を洗わないを選択した方」の合計)
※2015年11月12日 消費者庁ニュースリリース より
幼いころから当たり前のようにしつけられるため、逆に「なぜ手洗いをするのか」を真剣に考える機会は少ないのかもしれません。今回は、改めてトイレ後に手を洗わないリスクについて考えてみましょう。
■感染症の多くはヒトが媒介
食中毒や風邪など、感染症の原因の大半はウイルス。そして、そのウイルス感染の多くは、人が媒介することで拡散されているのです。ドアノブや手すり、つり革など目に見えないところに付着しているウイルスが“手”を介して、眼や鼻、口に触れた際に体内に侵入し、感染していきます。
例えば、冬場に多いノロウイルスによる食中毒は、細菌による食中毒に対して、発生件数に対する患者数が何倍も多いことが知られています。最初に汚染された食物から感染した人よりも、発症した人の嘔吐物や糞便などを介して二次的に感染する人のほうが圧倒的に多いのです。
現に、家庭で一人がウイルス性腸炎を発症すると、家庭内でも次々とウイルス性腸炎を引き起こします。家庭内にウイルスが蔓延しているため、接触する機会が多いほど感染しやすいからです。また保育園や老人施設など、免疫力が低下している人が多い場所ほど、容易に人から人へ感染が広がっていきやすい傾向にあります。
■ノロウイルスはトイレで感染する危険がある
食中毒の原因数として最も多いノロウイルスが増殖する場所は、人の小腸内です。つまり、感染した人の便は、何倍もの増殖したウイルスが満ち溢れているのです。感染した便内には、1gあたり数億個のウイルスが含まれていると言われており、そのうちの10~100個程度が体内に入っただけでも感染が引き起こされます。
ノロウイルスに感染しても、自覚症状がない人や軽い下痢のみで腸炎と気付かない人も存在します。一旦感染すると1~2週間、人によっては1ヵ月程度便中に菌を排出し続けます。不特定多数の人が利用するトイレは、二次感染するリスクがかなり高い場所といえます。
■トイレで腸管出血性大腸菌に感染する可能性も
ノロウイルスほど多くはありませんが、腹痛や下痢、血便などの激しい症状を引き起こす腸管出血性大腸菌感染(O111やO157など)に感染するリスクもあります。腸管出血性大腸菌に感染しても症状がないか軽い人も存在し、通常のトイレでも感染のリスクがあるのです。
なお、大腸菌といってもわたしたちの体内にいる大腸菌のほとんどは、大腸内にいる限りは通常無害です。腸炎を引き起こす腸管出血性大腸菌は、牛などの腸内に多く存在しています。一部の有害な“病原性”を持った大腸菌が体内に入った場合に問題となります。
■小便後にも手を洗う理由
これまでの内容では、大便が主な感染源になっていたため、「小便のあとは手を洗わなくても良いのでは?」と思った方もいるかもしれません。しかし、やっぱり小便の後も手を洗う必要があります。
理由としては、先述したようにトイレ自体に菌が多く、感染リスクが非常に高い場所だということがあげられます。また、小便をした際には、皮膚にある黄色ブドウ球菌が手に付着します。出たばかりの尿はきれいですが、時間がたつと菌が増殖し、尿の成分が分解したり腐ったりすることで臭いを放つようになります。以上の理由により、小便後も手洗いを行った方がよいのです。
■トイレ以外でも手洗いの習慣を
ノロウイルス感染以外にも、インフルエンザや風邪の予防にも手洗いは効果的です。トイレ以外でも手洗いの習慣をつけるようにしましょう。特に近年は飲食店からの食中毒が増加しています。ノロウイルス感染に気付かずに調理をした料理人から、大量の食中毒患者が発生した事例も報告されています。食品を扱うときにも注意が必要です。
・トイレの後
・帰宅時
・人ごみから出たあと
・咳やクシャミを手で押さえたあと
・食事の前
・食品を扱うとき
■正しい手洗いの仕方
水だけでサッと洗い流している人もいますが、それだけでは効果は不十分。石鹸を使って強めにもみ洗いして、物理的に菌やウイルスを落とすようにしましょう。
1. まず手指を流水でぬらす
2. せっけん液を適量手のひらにに取り出す
3. 手の平と手のひらをすり合わせよく泡立てる
4. 手の甲をもう片方の手のひらでもみ洗う(両手)
5. 指を組んで両手の指の間をもみあらう
6. 親指でもう片方のてで包みもみ洗う(両手)
7. 指先でもう片方の手のひらでもみ洗う(両手)
8. 両手首までていねいにもみ洗う
9. 流水でよくすすぐ
10. ペーパータオルでよく水気をふきとる
(執筆:今村 甲彦)
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