肥満傾向にある方から「たくさんは食べてないんですけどね」という言葉を伺うことがよくあります。しかし考えてみれば、たくさん食べていないのに太ってしまうのはおかしな話です。詳細を伺ってみると、体の「適量」以上に召し上がっていることがほとんど。自分の考える適量ではなく、体にとっての適量を知ることが生活習慣病予防には大切です。
■たくさん食べていないはずなのにどうして太るの?
ダイエット希望の方々とお話しをしていると、「普通にしか食べていないのになぜ太るのでしょう?」と聞かれることがあります。
“普通”がどのような量なのかと伺ってみると、「今まで通り食べている」とのこと。そこでさらに「今まで通り」の量を細かに聞いてみると、栄養士が考えている適量とは明らかな差を感じることが多いものです。
健康のために必要な食事量を「普通」と認識して、適量を食べるための手軽な方法はないのでしょうか。
では、ダイエット希望者と栄養士が考えている適量には、なぜ差が生じてしまうのでしょうか?
■体にとっての「適量」はどのくらい?
まず、栄養士の考える「適量」をお話しします。
正確には基礎代謝量に活動係数(患者様の活動状況をあらわす数字)をかけて計算するのですが、基礎代謝量の計算式は複雑で暗算できるようなものではありません。そのため、1日の必要エネルギー量は標準体重(BMIを22と仮定した時の体重)に性別や仕事内容(体をどのくらい動かしているか)などを加味して、1kgあたり30~35kcalとして考えます。
身長160cmの人の場合、標準体重は56.3kgですので、1689~1971kcal。上限と下限の差が300kcal近くありますが、食事のメニューは毎日変わりますし、目標の数字を決めてもぴったりにすることは難しいので、まずはこの範囲に入っていればほぼOKと考えて大丈夫です。
しかし、コンビニのお弁当のようにエネルギー量が記載されているものばかりを食べているわけではないので、どのくらいのエネルギー量を摂るとよいと数字で示されても、ピンと来ないのではないかと思います。
そのため、最も良い指標となるのは体重の増減です。
すごくシンプルですが、体重が増えれば食べすぎていると分かります。体重が変わらなければ、活動に必要なエネルギーと食事で摂っているエネルギーがほぼ同じであり、理想的と考えられます。体重が減少する場合は、食事で摂っているエネルギー量よりも活動に必要なエネルギー量が上回っているので、痩せる(ダイエット中であれば成功しつつある)というわけです。
■外出先でも自宅でも、簡単に「適量」を知る方法
栄養のバランスのよい食事を摂ることが健康のために大切であることは、何度も繰り返しご説明している通りです。しかし、外出先などでその都度使用されている食材を分析し、食品交換表を使って正確な摂取栄養素量を計算することはできません。そこで、簡易的に「適量」を知る方法をお教えします。
■まずは食事の「質」をチェック
まず、食事の「質」がよくなければ、栄養バランスがよい食事にはなりません。食事の質がよいかどうかは「定食」の要素があるかどうかを確認します。定食は、ご飯(主食)・肉や魚(主菜)・野菜の小鉢(副菜)・汁物の4つの料理で構成されています。このうち主食・主菜・副菜の3つが揃っているかどうかがポイントになります。
とはいえ忙しい毎日の中で、1日3食ともこういった食事を用意することは難しいと思います。定食が用意できない場合は、「主食の要素はあるか?主菜の要素はあるか?副菜の要素はあるか?」を確認するのです。
主食はご飯・麺(ラーメン、うどん、そば、パスタなど何でも可)・パンなどから1種類、主菜は肉・魚・卵・豆腐から1種類以上、副菜は野菜が入った料理であるかどうかをチェックします。
また、急いでいるときなどには、これらの3つの皿を用意するのも難しいことがあると思います。その場合は、ハンバーガーチェーン店でもハンバーガー(パン、ハンバーグ)にサラダを追加すれば、3つの要素は揃います。
牛丼(ご飯、牛肉)にサイドメニューでサラダや具沢山のけんちん汁(本来は汁物ですが、野菜がたっぷり入っているのでたまにならOK)などを追加することでも、3つの要素をそろえる事ができます。
このように「主食・主菜・副菜はあるかな?」と確認することが1つめのポイントです。
■食事の「量」は自分の手と比べると分かりやすい
適量を知るには、自分の手と比べるのが一番分かりやすいと思います。主食は手を握ったこぶし状(じゃんけんの「グー」の形)が1食分、主菜は手を開き、指を除いた手のひらの大きさが1食分です。しかし、これだけでは不足していると感じるかもしれません。そうした場合は野菜類で補います。
これが体に必要な栄養素を含んだ食事の量です。料理の種類や材料によって栄養素量は異なりますので、この方法は大雑把だといえば大雑把です。とはいえ、「手」であれば常に身近にあります。外出先でも目安を作ることができますので、実行しやすい利点があります。
このように患者様にお話しすると、体にとっての適量と頭で適量と考えて食べている量とには開きがある場合が多くあります。本当に体が欲している適量をきちんと頭でも理解して、食べすぎを防ぎましょう。
(執筆:平井 千里)
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