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「赤い」「青い」と言うのに、なぜ「緑い」と言わない?

「赤い」や「青い」といった、色をあらわす形容詞。この「~い」という形容詞の用法が適用できない色があります。たとえば「緑い」や「紫い」。このような言葉は、ふだんの会話でも使うことはないと思います。このような色による用法の違いは、日本古来の色の捉え方に由来しています。

■日本には元々「赤」「黒」「白」「青」の4色しかなかった

実は日本語において、「~い」という形容詞で表現できる色は、「赤い」「黒い」「白い」「青い」の4色だけ。「緑い」や「紫い」という形容詞はなく、赤や青と同じ「色の三原色」である黄色ですら、「黄色い」という風に「色」を付けなくては活用できません。また、「赤々と」「黒々と」「白々と」「青々と」のように、副詞的用法を持つ色もこの4色だけです。

このように「赤」「青」「白」「黒」の4色の活用法が豊かなのは、かつて日本には、それ以外の色名が存在しなかったことの名残りです。それぞれの色名の語源を紐解くと、なぜ日本でこれらの色名がほかの色名に先行して生まれたのかが見えてきます。


明暗をあらわす。アカシ アカ(明)


明暗をあらわす。クラシ クロ(暗)


濃淡をあらわす。シロシ シロ(著)


濃淡をあらわす。アワシ アヲ(淡)

明るい色は赤、暗い色は黒、はっきりした色は白、はっきりせず曖昧な色は青、という定義ができます。このような色の捉え方は、現在使われている色体系の「明度」「彩度」の概念に似ています。いっぽうで、色の様相・色合いの指標となる「色相」という捉え方が存在しなかったこともうかがえます。

現代において「赤」と呼ばれる色は、はっきりした(彩度が高い)色であり、「白」と呼ばれている色は明るい(明度が高い)色であることから、赤と白のあいだで意味が逆転していることもわかります。

■青竹、青果、青信号・・・「緑」は「青」の一部だった

ちなみに、先に挙げた日本古来の四原色の青には、いまわたしたちが認識している「緑色」も含まれてたと考えられます。現代でも、「青竹(幹が緑色の竹)」や「青果(緑色の野菜)」「青信号(実際は緑色)」など、緑色を青色の一部とする用法は広く残っています。

ふだんなにげなく口にしている日本語には由来があり、わたしたちはそれを気に留めずに使っていると思います。すべての言葉が対象物をそのままに言い表しているのではなく、その言葉が生まれた時代の観念を残したまま定着している言葉も存在します。今回の「色」という切り口だけではなく、さまざまな側面で日本語を考えてみると、“文字通り”ではない不思議な言葉が存在することに気づけるでしょう。

参考文献:小松英雄 (2001), 『日本語の歴史―青信号はなぜアオなのか』笠間書院 P.178 -209

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